ここでは、外国為替に関する解説書や外国為替に携わっている人たちが著述した古今の 書籍を、筆者の書評を添えて紹介します。 ただし、筆者の評価や書評は、あくまで一読者の個人的な意見であって、むやみにその 購入を勧誘するものでも、その内容を誹謗・中傷するものでもありませんので、 あらかじめご了承ください。 (評価について)
NO.10
タイトル
外為市場血風録
総合評価
★★★
著者
小口 幸伸
価格
★★★★★
適量度
★★★★★
出版社
集英社文庫
役立つ度
★★
読み物度
★★★★★
価格
700円(税抜き)
オリジナリティ
★★★★
読みやすさ
★★★★★
読んだ版
2003年1月発行初版
今どき度
★
長寿度
★★★
総評この本は、シティバンクを皮切りに、第一線の外国為替ディーラーとして、外資系銀行をわたり歩いてきた著者が、その長い経験とディーラーの目から見た国際金融・外国為替市場での激動のドラマを綴ったものである。著者は、私の知る限りにおいて、外為ディーラーが外国為替市場の実態を詳細に紹介した最初の書籍と言える「外為市場の素顔」(マネックス社刊、現在は金融財政事情研究会より復刊)の著者でもあり、興味をもって読ませていただいた。
序章とも言うべき、第1部の著者の外為ディーラーとしての経歴は、東京外国為替市場の草創期からの歴史とも言え、単に一般に知られている東京市場の変遷の記録ではなく、著者の体験談も交えた東京市場の栄枯盛衰を伺い知ることができる。
本のタイトルともなっている第2部は、これをさらに発展させ、東京市場のみならず、いわゆる国際金融市場としての外国為替市場における、これまでの様々なできこどを描いたいわゆる「血風録」である。
ニクソン・ショックからオイル・ショック、プラザ合意やルーブル合意からブラックマンデー、欧州通貨危機やアジア通貨危機、LTCM破綻といった関係者なら誰もが知っている大事件について、その背景や原因の分析に加え、ディーリング・ルームで第1線のディーラーとして、このような事件に遭遇した著者の体験談やその苦闘の有様が如実に語られている。新聞やテレビによって報道された内容の裏側にある様々な事情、ディーラーの立場にいなければ、決して見ることができないような真実の姿を垣間見ることができるのである。
特に、興味深いのは、時折登場するビッグプレイヤーの動向である。フォルクスワーゲンのディーリングや中東オイルマネーの動向、邦銀海外支店の巨額損失事件、旧ソ連の国営銀行やMAS(シンガポール通貨庁)のエピソードである。正に実際に取引の渦中にいなければわからない彼らの動きが紹介され、過去の事とはいえ、今さらながら驚かされる。
また、「コラム」として、外国為替相場や市場の仕組みが簡単に解説されており、外国為替相場に縁のない一般の読者向けの配慮もなされている。
この本を呼んでいると、外為市場の歴史は通貨危機の歴史にも見えてくるのであるが、著者は最後の部分で、米ドル、ユーロ、円についての通貨危機の可能性を探っているが、ここでも米国の経常赤字と財政赤字のいわゆる「双子の赤字」がドル危機の誘因になっていることが指摘されており、これを書いている2003年12月現在、市場がこの問題に着目して、ドル安が進んでいるのを見ると、著者の指摘どおり、世界の通貨体制の中心たるドルが危機に陥る可能性を常に意識しておかねばならないことを痛感する。
この本は、外国為替市場の草創期から第1戦のディーラーとして活躍してきた著者が、外国為替市場の激動の歴史の中で遭遇した大事件について、実際にどのようなことが起きていたのか、それに対して世界、あるいは自分がどのように対処したのかを、市場の内側の視点から綴ったいわゆる実録であり、「血風録」というタイトルに相応しい書であると言える。