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 ここでは、外国為替に関する解説書や外国為替に携わっている人たちが著述した古今の
書籍を、筆者の書評を添えて紹介します。
 ただし、筆者の評価や書評は、あくまで一読者の個人的な意見であって、むやみにその
購入を勧誘するものでも、その内容を誹謗・中傷するものでもありませんので、
あらかじめご了承ください。           (評価について)

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NO.16

タイトル

NO.1 為替ディーラーが伝授するインターバンク流 FXデイトレ教本

総合評価

★★★★

著者

小林 芳彦

価格

★★★★★

適量度

★★★★★

出版社

(株)日本実業出版社

役立つ度

★★★★★

読み物度

★★★

価格

1,500円(税抜き)

オリジナリティ

★★★★★

読みやすさ

★★★★

読んだ版

2012年3月発行初版

今どき度

★★★★

長寿度

★★★★


総評

 この本は、邦銀、外資系銀行で主にカスタマーディーラーとして活躍し、現在はFX取引(外国為

替証拠金取引)会社の社長を務めている著者が、自らの外国為替相場の分析手法と取引テク

ニックを中心に著したものである。

 著者のように、かつて金融機関で外国為替ディーラーとして活躍し、FX取引業者に移って、

このような外国為替関連のいわゆる「ノウハウ本」を出す人は多い。しかし、その多くは、外国為

替市場や相場動向の分析手法についての基礎など、通り一遍のことを記載しながら、実はハイリ

スクでもあるFX取引を煽り、自分が籍を置いているFX取引業者、あるいはその業者が顧客に提

供しているシステムを宣伝しているような「広告本」である。(2004年辺りから、この手の本が大

量に出版されたが、ここで紹介する価値もないのが大半で、この書籍紹介のページをあまり更新

できない理由の1つでもある。)

 ところが、この本は、著者が実際に相場を分析・予想している手法をほぼそのまま紹介して

おり、その解説も実際のチャートを添えて、かなり具体的で、読者がすぐにでも同様の分析を行え

るぐらい実践的でもある。

 私も、著者本人に直接お会いしたことが何度かあるが、「為替ディーラー」というより、熱心な「営

業マン」といった印象も受けた。しかし、この本には、著者が社長を務めるFX取引会社との取引を

勧誘するような営業的な記述はほとんどなく、著者自身の分析手法の紹介に徹している点で、他

の同業者の著書と一線を画している。

 巻末に、著者の分析・予想に基づく過去1年の顧客向けのレポート掲載と実際の相場動向を対

比して、「成績表」ともいうべき付録がついており、その分析手法の精度に加え、当たり・ハズレも

詳らかになっているため、著者の誠意をも感じられる。

 

 さらにこの本が優れているのは、「資金管理」の重要性を説いている点である。

 相場格言にも、「お金を儲けることと、それを維持することは全く別のものである。」というのがあ

り、相場動向を見極めて利益を上げることができる判断力と、稼いだ資金を維持するマネージメン

ト能力とは別物であるということで、相場で真の成功を収めるには、両方の才能が必要だというこ

とである。この本でも、100人のトレーダーに勝率6割のシステムトレードを用いて1年間運用させ

た結果、5人しか収益を残せなかったという例が示されている。

 個人でFX取引を行う場合、証拠金の金額と取引金額やレバレッジ、利食い時の値ザヤや損切

りのポイントなどについて、適度な幅や水準、バランスがあるように思うのだが、この本では具体

的な数値で、これを示しているのだ。

 

 ただ、惜しいと思う点は、1つには、経済指標に対する観点が、この本が書かれたと見られる

2011年後半から2012年明け時点での評価になっている点である。例えば、FOMC(米国連邦

公開市場委員会)とその声明の内容は重要なもので、この本でもその点には触れているものの、

今はさほど重視しなくてよいような書き方になっている。1980年代後半は米国貿易収支がメーン

の材料だったが、ここ最近は米国雇用統計に焦点が移るなど、外国為替市場が着目する材料は

その時期によって移り変わることは、著者も言及しているのだが、それだけに「今注目の指標はコ

レ」のような描き方になっているのは残念でならない。また、著者の紹介する相場動向の分析手

法や資金管理の考え方が、外国為替市場がある限り、いつの時代にも使えるような優れた内容

だけに、このような描き方は、この本の寿命を縮めているように感じる。

 もう1つは、専門性の問題であろう。文章自体は、かなり平易に書かれており、わかりやすいの

だが、外国為替取引に関する専門用語などについて、時折解説する記述はあるものの、個別の

用語解説のようなものがない点である。金融機関のトレーダーや事業会社の外国為替担当者、あ

るいはFX取引の経験を積んできた個人などであれば、何の苦もなくスラスラ読めるだろうが、FX

取引の初心者やいわゆる「ズブの素人」には、よくわからない部分があるように思う。これは、著

者が長年にわたり、多くの金融機関のトレーダーや事業会社の外国為替担当者と接してきたこと

に起因しているのかもしれない。

 しかし、裏を返せば、この本に記載されている程度の専門用語や、その時点で市場が着目して

いる材料が何なのかぐらいは、金融機関のトレーダーや事業会社の外国為替担当者ならば、知っ

ていて当然だし、これからFX取引を始めて稼ごうと考えている人なら、この程度は勉強しておく必

要があるだろう。その意味で、この本は一般人向けの解説書ではなく、外国為替取引について、

ある程度以上の知識を持った人向けの専門書と言える。

 

 この本は、元外国為替ディーラーが、自ら築き上げた外国為替相場動向の分析とトレーディング

テクニックのみならず、資金管理の重要性をも説いた、外国為替取引で利益を上げようとしている

人たちへの指南書であろう